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大阪地方裁判所 平成8年(わ)583号 判決 1996年11月18日

本店所在地

大阪府東大阪市御厨北ノ町九四番地の二二

株式会社

根建組

右代表者代表取締役

根建順男

本籍

富山県下新川郡朝日町境一六三五番地

住居

大阪府枚方市藤阪東町四丁目二一番一四号

会社役員

水島直臣

昭和一七年五月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官酒井徳矢出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社根建組を罰金二三〇〇万円に、被告人水島直臣を懲役一年六月に処する。

被告人水島直臣に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社根建組(以下「被告会社」という。)は、大阪府東大阪市御厨北ノ町九四番地の二二に本店を置き、土木工事業を営む株式会社(資本金は三五〇〇万円)であり、被告人水島直臣(以下「被告人」という。)は、被告会社の専務取締役として被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告人から依頼を受けて被告会社の法人税確定申告手続に関与した道下貞彦及び仲野正信と共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  平成三年一〇月一六日から平成四年一〇月一五日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が八二四六万一三四一円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が三〇〇七万〇三〇〇円であった(別紙一の2税額計算書参照)にもかかわらず、架空外注費を計上するなどの行為により、その所得を秘匿した上、同年一二月八日、大阪府東大阪市永和二丁目三番八号所在の所轄東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の欠損金額が五一万一九七九円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が〇円(別紙一の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙一の2税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税三〇〇七万〇三〇〇円を免れ

第二  平成四年一〇月一六日から平成五年一〇月一五日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億四一〇〇万二四七五円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が五二〇一万三五〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年一二月一五日、前記東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一六二七万八一七九円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が五二四万二〇〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙二の2税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税四六七七万一五〇〇円を免れ

第三  平成五年一〇月一六日から平成六年一〇月一五日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億一二八七万三六〇九円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が四一四七万円(別紙三の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年一二月一五日、前記東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が四八二八万〇七四七円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、課税留保金額が六一五万一〇〇〇円であり、これらに対する法人税額が一七八六万二八〇〇円(別紙三の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、別紙三の2税額計算書のとおり、右事業年度の法人税二三六〇万七二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)(括弧内の漢数字は証拠等関係カード検察官請求分記載の証拠番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人及び被告会社代表取締役根建順男の当公判廷における各供述

一  分離前の相被告人道下貞彦の当公判廷における供述

一  被告人(三九〇ないし三九七)及び根建順男(三八八)の各検察官調書

一  道下貞彦(三九八ないし四〇二)、仲野正信(四〇三ないし四〇五)、新村弘子(三七七ないし三八〇)、水島優(三八一)、山口幸子(三八三)、卒田正(三八四)の各検察官調書

一  査察官調査書(三五一、三五二、三五四ないし三五七、三六〇、三六二、三六三、三六七、三六九、三七一ないし三七三)

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面(三四九)

一  法人登記簿謄本(三八五)

一  閉鎖された役員欄用謄本(三八六)

判示第一の事実について

一  査察官調査書(三五八、三六一、三六四、三七五)

一  証明書(三四六)

判示第二及び第三の事実について

一  査察官調査書(三五九、三六八、三七四)

判示第二の事実について

一  加治屋雄二の検察官調書(三八二)

一  査察官調査書(三五三、三六五、三七六)

一  証明書(三四七)

判示第三の事実について

一  査察官調査書(三五〇、三六六、三七〇)

一  証明書(三四八)

一  大蔵事務官作成の報告書(五一九)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処することとし、情状により、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人の判示各所為はいずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示各所為につきそれぞれ法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して右の罰金額はいずれも、その免れた法人税額の額に相当する金額以下とし、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金二三〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

一  本件は、被告会社の専務取締役として、被告会社の業務全般を統括していた被告人が、道下及び仲野と共謀の上、被告会社の三事業年度の法人税合計一億円余りをほ脱した上、そのほ脱率は約八一・三パーセントと高率であり、納税義務に著しく反する悪質な事案である。

二  そこで、まず、犯行態様についてみるに、本件は、過去の取引先やダミー会社等に対する架空外注費を計上したり、外注費を水増しして計上する等の方法によって敢行されたものであるところ、架空外注費については、内容虚偽の振替伝票を作成した上、掛仕入集計表に記載して未払費用として計上し、翌期に小切手を振り出すなどして実際に支払われたかのように装い、水増しした外注費についても、取引先に支払った上、その一部の返還を受けていたものである。また、同和団体が税務署に対して圧力をかけられるとの認識から、脱税の発覚を防止し、発覚した際にも税務署に圧力をかけて摘発を免れるため、西成同友会や平和商工会を通じて本件の確定申告を行うなど、犯行は計画的で巧妙なものである。

また、被告人の本件犯行への関与の態様についてみても、被告人は、専務取締役に就任する以前から道下らが被告会社の脱税に関与していたとの認識から、同人らに脱税の相談をし、同人らから本件の脱税方法を提案され、本件脱税を依頼するに至ったのであり、各事業年度における納付税額を決定したほか、経理担当の事務員に指示して掛仕入集計表や振替伝票を作成させるなど、具体的な脱税工作にも相当深く関与したのであり、さらに、外注費の水増し計上については、道下らに相談せず、独自にこれを行っていたのであるから、被告人は、本件犯行において欠くべからざる重要な役割を果たしたものと評価できる。

以上のとおり、本件脱税の規模、態様や被告人の本件犯行での関与の態様等に照らせば、被告会社および被告人の刑事責任は重大である。

三  しかしながら、被告会社においては、被告人が専務取締役に就任する以前から脱税を行っており、被告人はこれを引き継いだという面もあること、被告会社において修正申告の上、ほ脱した法人税、地方税、消費税等の全額約二億五〇〇〇万円を納付していること、被告会社は道下らに対して、合計一一〇〇万円余りの脱税報酬を支払っていること、被告人は事実を素直に認めて反省し、新しい経理体制の確立にも努めていること、被告人には前科前歴がないことなど、被告会社および被告人に有利な事情も認められる。

四  そこで、以上の事情を綜合して考慮の上、被告会社及び被告人をそれぞれ主文の刑に処し、被告人についてはその刑の執行を猶予するのを相当と思料する。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 伊元啓 裁判官 渡部市郎)

別紙一の1

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙一の2

税額計算書

<省略>

別紙二の1

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙二の2

税額計算書

<省略>

別紙三の1

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙三の2

税額計算書

<省略>

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